子宮がんとは? 死亡原因の3人に一人の「がん」
現代人をおびやかす「がん」。最近では死亡原因の3人に1人がなんらかのがんであるともいわれています。
とくに女性特有の「乳がん」「卵巣がん」「子宮がん」はすべての女性にとって不安なものです。そもそもがんとはどんな病気なのでしょうか?
簡単に説明すると、細胞になんらかの刺激が加わり、突然変異の細胞ができるのががんの前段階です。その突然変異の細胞が増えて進行していってしまうのががんと呼ばれています。
がんの恐ろしさは、そのがん細胞によって器官の機能が失われることにあります。
がんは発生する部位によって、症状や治療も異なります。子宮がんの場合も、入り口付近と奥とではまた違ったものとなります。
子宮は女性の身体を維持するのに欠かせない器官のひとつ。子供を宿すのはもちろん、生理によって正常なホルモンのサイクルを保つための重要な器官です。子宮は子宮頸部と子宮体部に分かれていて、がん発生の原因も治療も異なってきます。比較的若い女性に多いのが子宮頸がん。
年配の方に多いのが子宮体がんといわれています。
自治体が補助している子宮がんの検診・検査は、年齢によって異なります。若い世代には、特に頸部の子宮がんの検診・検査を促しています。子宮体部のがんは希望者のみに行われることが多いようです。
乳がんほどの宣伝力のない実態
女性特有のがんで発生が最も高いのは、乳がんです。東西・先進後進を問わず、世界中で乳がんは発生率が高く、また世界中で乳がんへの関心が高まっています。ピンクリボンで乳がん撲滅を訴える運動は有名で、メジャーリーグの試合では選手がピンクに塗られたバットを使用するなどの活動をしています。
乳がんはそれぞれの国レベルでの対策も比較的進んでおり、積極的に検診を促していることから、生存率も昔と比べてずいぶん高くなったそうです。
日本では乳がんに次いで多いのが子宮頸がんです。他の器官のがん発生年齢が50代なかば以上が多いのにくらべ、子宮頸部のがんは40代の発生率が高いのが特徴です。子宮がんの生存率は乳がんに比べてまだそれほど高くはありません。これは子宮がんの検診・検査の制度が整っているわりに、まだ一般に認知されていないことが問題のようです。
がんは発生から自覚症状があらわれるまで、およそ10年を要するといいます。つまり時間をかけて大きくなっているので、その間に発見することも可能なのです。20代、30代の頃から積極的に子宮がんの検診・検査を受けていれば、早期の治療で治せる見込みが高くなるのです。
乳がんが運動によって広く認知された例にならって、子宮がんの検診・検査も徹底されることが求められているのかもしれません。
入り口にできる若年層を襲う頸がん
子宮がんとは? ひとくくりで問われがちですが、実は子宮頸がんと子宮体がんに分けられていて、症状も治療も全く違います。しかし、このことはあまり知られていないのが現状のようです。
この問題が医療の現場でも混乱を招いていたことがあるようです。
死亡率の統計をとっているお役所ではひとくくりの「子宮がん」という言葉を使用しているため、「子宮がんの生存率」という数字には、頸部も体部も含まれてしまっていたとか。生存率は研究や治療に必要な数字なのに、うやむやになってしまっては大変です。
子宮頸部とは、膣から子宮をつなぐ入り口の部分のことです。言い換えるとセックスのときにペニスを受け入れる奥の部分のこと。この部分のがんの原因はウィルスが関係していると言われています。検査がしやすいため、早期の治療が見込める部位でもあります。
子宮体部は子宮の奥の方のことをいいいます。この部分のがんは閉経後に多くみられます。ホルモンバランスが関係しているとの見方が強いようです。
このように、ふたつの子宮がんの原因はまったく違ったものであると考えられています。当然ながら、治療法も異なるために同じ名前で呼ばれていることが問題となっているのです。
向井亜紀さんの場合
子宮がんと聞いて思い出すことは何ですか? 向井亜紀さんの名前を挙げる人が多いのではないかと思います。彼女は記者会見で「20代からの検診をしてほしい」と涙ながらに訴えました。その姿は衝撃的といってもいいほど、説得力がありました。
向井さんが伝えたかったことは、早期発見が子宮がんの治療で最も大切だということです。
当時は30歳以上が子宮がんの検診・検査の対象でした。しかし、自治体によってはここ数年で20代まで引き下げるという傾向がみられます。これは子宮頸がんの原因が性交渉によるウィルスの感染の可能性が高いことにあります。性交渉の頻度の多い20代からの検診が有効であると認識されるようになったのです。
向井さんは子宮がんを手術で摘出をしました。しかし、どうしても子供が欲しいという信念から代理出産という道を選びました。実は、子宮がんの手術をしたときにお腹の中に赤ちゃんがいたのだそうです。テレビ番組「オーラの泉」では当時の想いを涙を浮かべながら語っていました。
向井さんは代理出産により、二人のお子さんに恵まれました。代理出産にはまだ難しい問題が多く、彼女の闘いは続いています。私たちにできることは何かないかと考たときに、彼女が伝えた「子宮がんの検診・検査を受けて欲しい」という言葉がすべてを物語っているのではないでしょうか。
ウィルス感染を防ぐには
子宮がんの原因、そのなかでも子宮頸がんの原因が性交渉によるウィルスの感染であることがわかっています。
そのウィルスとはヒトパピローマウィルスというもので、男性器の恥垢に含まれる可能性が挙げられています。
このヒトパピローマウィルスにはさまざまなタイプがあり、ウィルス保持の男性は少なくないと言われています。感染がかならずしも子宮がんの原因となるわけではなく、ほとんどの場合は免疫が作用するそうです。しかし、子宮がんの原因であることが認められている以上は見逃せるものではありません。
感染を防ぐためのおもな方法は、コンドームの着用があげられます。そして、不特定多数の相手との性交渉はしないなども重要です。パートナーとともに清潔を心がけることも有効といわれています。
これらの対策をしていれば、子宮頸がんにかかる可能性は低くなるでしょう。パートナーと協力して予防することが大切です。
ヒトパピローマウィルスに対抗するワクチンが、いま世界中で開発されています。認可がおりるまでには、様々な問題を解決する必要があり、時間がかかるのではないかと言われています。それまでに私たちができることは、自分にできる子宮がんの予防をすることなのではないでしょうか。
ますい志保さんの場合
子宮がんと闘った有名人に、銀座「ふたご屋」の経営者ますい志保さんがいらっしゃいます。テレビへの出演も多く、華やかなイメージの方です。しかし、30代という若さで子宮がんが宣告されてしまいました。
ますいさんはそのときの体験を、自叙伝として発表しました。ご自身の体験から子宮がんの手術、リハビリ、社会復帰、そしてその後のセックスについてなど、多くを語っておられます。
そして、経験者にしか語れないリアルな言葉が反響をよびました。ご本人曰く「同じ子宮がんの症状で苦しむ女性が多いのに、情報が少ない」「一人でも多くの人に生還してほしい」との気持ちで執筆に至ったとのことです。
病を克服した女性は、人の痛みに共感したり、役に立ちたいと願う気持ちが強くなるのかもしれません。この本は同じ子宮がんの治療をうけている患者さんにとって共感をよんだといいます。
お医者さんが書いた難しい専門書は子宮がんの治療におおいに役立つものです。しかし、こういった経験者個人の話は、より具体的で参考になる部分が多いのではないでしょうか。
本を読むことで子宮がんへの関心が高まったり、子宮がんの検診・検査が促されるといったこともあるかもしれません。
一見華やかで、別世界にいたようにみえたますいさんですが、そのイメージのギャップが共感をおぼえさせたのかもしれません。
洞口依子さんの場合
子宮がんと闘った芸能人といえば向井亜紀さん、ますい志保さん。そしてもう一人、洞口依子さんがいます。
黒沢清監督や伊丹十三監督といった大物映画監督に認められ、多くの映画に出演されていた洞口さん。2004年に子宮がんを患いました。
発見が遅く、子宮がんの手術後に卵巣の転移がみられたことから子宮卵巣全摘出手術をうけました。そして闘病生活を経た後、「女のモノを失って本当の“あたし”となる」と発言したことが話題を呼びました。
2006年に洞口さんは女優として復帰しました。その活動は女優業だけでなく、自身のブログでがんについて語るほか、本の執筆、シンポジウムへの参加など多岐にわたります。
まさに「本当の“あたし”」という言葉にふさわしい活躍ぶりと言えるでしょう。ブログには多くの書き込みが寄せられていることから、彼女の人気が伺えます。書き込みには子宮がんの治療を受けている方も多く、励ましの言葉が交わされています。
女優という職業を通じて、子宮がんの治療体験を語る洞口さん。その姿に共感を呼ぶのは、厳しい世界を歩んできた、その強さと誇りを感じるからでしょう。病を乗り越えたいと願う患者さんにとって、彼女は心強い存在です。
中国での新しい試み
乳がん撲滅がピンクリボンとして世界中に広まっていますが、子宮がんのための活動はまださほど広まっていないのが現状です。
これは乳がんが全器官のがんのなかで発生率がずば抜けて高いという理由にあります。しかし、発生率は違えども子宮がんも決して珍しい病ではありません。
子宮がんが乳がんほどに認知度が高くない理由は、子宮がんの原因や、子宮がんの予防などの知識がまだ広まっていないことから、関心が薄いのではと考えられます。とくにアジア各国や後進国では子宮がんの発生率は高く、とくに若い世代に多い子宮頸がんは発見が遅れて生存率も低くなってしまっているようです。
2008年世界女性デーに、中国全土において中国がん症基金会がオランダのキアジェンという企業と提携して、無料の子宮がんの検診・検査をおこなったというニュースが伝えられました。
子宮がんの原因ヒトパピローマウィルスの検出で、早期発見をしようという試みです。中国は国土が広く人口も多い為、がんで亡くなる人口も世界的にみて大きな数字であることが問題となっています。
そこで地方に住む恵まれない女性に子宮がんの検診・検査をうけてもらうことで、その数字を下げられればというのが目的だったようです。国レベルでの取り組みが、世界で注目されつつあるようです。
子宮体がんと食事の関係
子宮がんのなかで、発見が難しく年齢があがるほどリスクが高まるのが子宮体がんです。これは欧米で多くみられるものと考えられていたのですが、最近では日本人にも多くみられるようになってしまいました。なにが子宮がんの原因なのでしょうか?
そのひとつには日本人の食生活が欧米化していることが原因ではないかと言われています。カロリーや脂肪が多く、栄養価の低い食事が、本来子宮がんになりにくかった日本人の体質を変えてしまうほどに影響しているのではないかと言われているのです。
食生活の欧米化の問題は子宮がんのみに言われる事ではありません。脂っこい食事がほかの部位のがんをはじめ、あらゆる病気のリスクを高めていることがわかってきました。
最近ではメタボリック症候群が注目されていますが、カロリー摂取をおさえることがあらゆる成人病の予防になるといわれています。
まるで田舎のお母さんの苦言のようですが、昔ながらの正しい食生活が子宮がんの予防となるのではないでしょうか。
肉の食べ過ぎを魚食におきかえることや、野菜やくだものを毎日食べるなどの工夫で、食生活は向上します。
ご自分で料理をしない方や、食事の時間がじゅうぶんにとれないという方も多いかもしれません。しかし、手軽な食事にばかり頼っているのでは不安です。サプリメントで補うこともできますが、やはり天然の食材ほどの栄養バランスはとれないことが問題となっています。
できるだけ食事のための時間を確保して、バランスのとれた食事をとることが、子宮がんの予防となり、未来の健康を創ると言えるのではないでしょうか。
子宮がん細胞診クラスBの持つ意味
子宮がんの進行度を示すFIGO・TNM分類指標がありますが、検診の際の基準に細胞診クラスがあります。
これは定期健診や会社等の集団検診などに行われる際の指標でより精密検査をする時の参考にもなります。
- クラス1:正常
- クラス2:良性の異常細胞を確認
- クラス3a:軽程度から中程度の異常細胞の形成
- クラス3b:高度な異常細胞の形成
- クラス4:上皮内がんの疑い
- クラス5:軽微レベルから浸潤がんの疑い
実際検診を受けた際に主治医から精密検査や手術を勧められるケースは、クラス3aからとなりますが一般的に心配や論議の対象になるのはクラス3bであるといえます。
クラス3b指摘された患者さんは一体どの程度なのか?非常に心配になると思いますが精密検査をするのは前提として全体のパイからすれば予後は良いクラスであると言えそうです。
もちろん個人差があり主治医の判断に慎重に従うのはあたりまえですが、クラス3b指標でいきなり命にかかわる程度ではあるかといえばそれは杞憂といっても良いレベルでしょう。
当然それからの経過観察は徹底するとともに個人において適切な処理はなされるべきですが、いきなりクラス3bで子宮全摘出となるとセカンドオピニオンを考えたほうが良いかもしれません。
医師によっては経過が良くても手術で部分摘出を勧める時もありますが、その場合は初期のがんレベルと同等の手術になります。
当然転移等はありえないのでがんになる可能性のある部分を外科処置するのもひとつの選択肢です。
ですが検診後も定期検査をきっちりとすれば経過観察の判断もありえるので、いずれにしても精密検査後の判断にかかってきます。